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本頁では、未払い残業(サービス残業)問題において、企業のよくあるNGケースのうち「労働時間の運用上の誤りによるもの」について、いくつか解説しております。 |
ケース1(残業代が出ない労働契約)
労働契約を締結するときに「うちの会社は残業代は出ません。」と言って労働者を雇い入れたとしても、残業代を払わなくていいことにはなりません。そもそも残業代は労働基準法によって支払いが強制されているからです。
では「残業代は、すでに含んだ上での賃金となっています。」と言って労働契約を締結した場合はどうでしょうか。これも、ただ言い方が違うだけで、上で述べた内容とまったく同じです。当然ながら有効とはなりません。
たとえ労働者が同意していたとしても、残業代を払わない旨の労働契約は法律の基準よりも下回ることになりますので、その部分は無効とされ、労働契約を締結したことになります。
法律の制限を受けない契約であれば、当事者間で自由に契約内容を定めることができますが、労働者と会社との労働契約では、どうしても労働者のほうが弱い立場になってしまうことから、労働基準法等によって労働契約の最低基準が定められているのです。
ケース2(労働時間の認識による間違い)
会社側が労働時間だと認識していなくて、後からその時間分の賃金額を労働者から請求されることがあります。さらに、その時間を足した結果、法定労働時間を超える残業時間が発生するときは、割増賃金も支払わなければなりません。
労働時間として扱わなければならないのに、労働時間として扱っていないケースとしては、以下のようなものが考えられます。
●休憩時間中に来客当番や電話番をさせている場合
●仮眠時間中に警報や電話への対応が義務づけられている場合
●所定労働時間外の研修時間(労働者が任意で参加するものでないもの)
●社長や上司が知っているのに労働者が勝手に労働している時間
●持ち帰り仕事を社長や上司が知っている場合
●始業時刻前の清掃や朝礼が義務づけられている場合
●労働安全衛生法で義務づけられた着衣や作業用具等を身に付ける時間
●現場から次の現場に移動する時間
●学習塾の講義間の休み時間中に、講師が次の講義の準備等をしなければならない場合
所定労働時間外の行為が労働時間になるかどうかの主なポイントは、会社側からの指示命令(黙示の指示命令も含む)があるか、法令で義務づけられたものであるかなどで、判断することになります。
ケース3(所定労働時間の設定による間違い)
これは、会社側が所定労働時間のことをよく理解していない場合に、起こり得る間違いです。
所定労働時間とは、労働者と会社との間で取り決めた通常の勤務時間のことをいいます。具体的には就業規則や労働条件通知書などに記載して定めます。また、法定労働時間(変形労働時間制の適用される労働者にあっては変形労働時間)を超えない範囲で取り決めなければなりません。
しかし、所定労働時間から既に法定労働時間を超えているのに、別に割増賃金に区分することもなく、基本賃金の設定をしていることがあります。
例えば、1日の所定労働時間は8時間で、隔週で5日間と6日間を交互に勤務するものとし、変形労働時間制ではなく原則の法定労働時間(1日8時間以内、1週40時間以内)が適用される場合であれば、週6日勤務のときが1週間の法定労働時間を超えることになり、1日分の8時間が法定労働時間を超える残業時間となりますので、1ヶ月のうちに16時間~24時間が残業代として発生することになります。
会社側がこのような残業時間の存在に気づいていなくて、労働者から請求されて、あわてて「この残業代は基本給に含まれています。」と主張したとしても、これは単なるいいわけにしかなりません。基本給などの所定内賃金と残業時間のような所定外賃金は、区分しておかなければならないからです。
会社側がずっと気づかないまま、このような状態が続いていれば、当然に残業代の未払いが増え続けていることになりますので、後で労働者から時効期間の全てを請求されてしまうと、数年分の残業代を支払うことになります。
ケース4(労働時間の振り替えによる間違い)
法定労働時間を超える残業時間は割増賃金を支払わなければならないので、その割増賃金の回避策として、既に発生した残業時間を他の出勤日の所定労働時間から同じ時間を差し引いて、割増賃金をプラスマイナスゼロにしていることがありますが、このような対応は違法です。
なぜかというと、労働時間の振り替えに、このような効果は認められていないからです。
これが自由にできてしまうと、所定労働時間を決めていないのと同じようになってしまい、賃金計算期間内の法定労働時間の限度を超えない限りは、法定労働時間を超える残業時間は発生しないことになり、原則の法定労働時間の「1日8時間以内、1週40時間以内」という規制が、意味をなさなくなってしまいます。
おそらく休日の振り替えと同じように、労働時間の振り替えもできるだろうという誤解から、このような間違った対応がなされているのではないでしょうか。
では、このような対応をする場合は、どうすればよいのでしょうか。例として「1日の法定外残業が4時間ついたから、翌日の勤務時間を4時間減らそう。」という場合で考えてみます。
まず1日の法定外残業は4時間で確定しますから、この分は法定外残業による割増賃金が4時間つくことになります。次に翌日の勤務時間から4時間減らす場合に、これが労働者の意思であれば遅刻や早退となり、4時間分を勤怠控除することになります。割増賃金と同じ額を勤怠控除することはできませんから、法定外の残業代と勤怠控除額の差額は増えることになります。
上とは反対に、翌日の勤務時間から4時間減らすことが、会社側の指示であれば、この分は休業手当の支払いが発生します。その結果、法定外の残業代と休業手当による基本賃金の減少分との差額は増えることになります。
結果として、いずれの場合もプラスマイナスゼロで割増賃金を完全にチャラにすることはできませんので、総額賃金を若干抑えるくらいの効果しかありません。
ケース5(勤怠集計ソフトによる計算間違い)
労働者の出退勤の管理のため、タイムカードを使っている会社はたくさんありますが、タイムカードの機械も多様化しており、昔からある時計みたいな形の機械もあれば、パソコンを利用するものもあります。
また、このタイムカードに連動する勤怠集計ソフトも様々なものが販売されていますので、これを使って労働時間の計算をしている会社も少なくないと思います。
ただ、勤怠集計ソフトで計算された労働時間が、正しくないということも見受けられます。
これは、ソフトが原則の法定労働時間や変形労働時間制に対応したものになっていなかったり、所定労働時間や所定休日などの事前の設定ができていないことで、起こり得るものです。
ソフトによって、どこまでの管理ができるか、どこまでの計算ができるのかは、各ソフトによって仕様が異なりますので、これをよく理解した上で運用していかないと、当然に正しい結果を返すことができません。
ケース6(営業マンだから残業代は出ない)
「営業マンだから残業代は出ないんです。」という話を時折耳にするのですが、これは完全に間違った認識です。
農水産業従事者(農業・畜産・養蚕または水産の事業に従事する労働者)の場合は、例外として適用除外となっていますが、営業マンは関係ありません。
おそらく営業マンについては、外勤中の時間が使用者の指揮監督から外れることもあり、事業場外労働に関するみなし労働時間制との関係で、このような勘違いが生じているのではないかなと思います。
みなし労働時間制については、
こちら(NGケース(労働時間の制度上の誤解によるもの))をご覧ください。
他には、病院に労働者として勤務する医師についても、「医師だから残業代なんて関係ない。」という認識があるようですが、これも営業マンと同様に残業代は免除されません。