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本頁では、未払い残業(サービス残業)問題において、企業のよくあるNGケースのうち「労働時間の計算間違い等によるもの」について、いくつか解説しております。 |
ケース1(残業時間の一部カット)
残業時間を一部カットするケースとしては、1日や1ヶ月の残業時間の上限を超える分はサービス残業(残業代を支払わない)とするものや、1日ごとの残業時間のうち10分~15分程度の時間を切り捨てるといったものがあります。
上限を超えたら残業代を払わないのは違法であるとしかいえませんが、10分~15分程度の端数処理については、問題ないように思っている方もいますが、これも違法となりますので注意が必要です。
1日単位の労働時間の端数処理は禁止されていますが、1ヶ月単位では行政通達により「1ヶ月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること」は認められていますので、この範囲での残業時間のカットは問題ありません。
こういうと、タイムカードに打刻された時間の端数処理と混同する人もいるかもしれませんが、多くの会社では「タイムカードの時間=出退勤の時間」であって「タイムカードの時間=労働時間」ではないと思いますので、単なる出退勤の時間であれば、上で説明した端数処理とは違う話になります。
ちなみに、タイムカードの法的位置づけとしては、タイムカードだけで時間管理をしている場合は、その時間が労働時間と推定されます。ただし、就業規則や労働条件通知書に所定労働時間を明確に記載していたり、所定労働時間以外の時間(残業や休日出勤等の時間)は届出制等としている場合は、必ずしも「タイムカードの時間=労働時間」とはなりません。
ケース2(残業代の時間単価による間違い)
法定労働時間を超える残業代の場合は、一律に1時間あたり1,000円で支払うとか、基本給のみの時間単価を算定の基礎にするとか、会社側が自由に決めることはできません。
反対に、法定内残業の場合は、最低賃金以上の時間単価となっていれば、それ以外の法律上は問題ありません。一般的には、基本給のみの時間単価や、基本給と一定の諸手当の合計額の時間単価で、支払うことが多いかと思います。
法定外残業の割増賃金の基礎となる賃金手当は、法律で除外できる手当が決められており、それ以外の手当はすべて含めることになっています。
除外できる手当は、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金となっていて、労働者に一律に支払う部分は除外できません。
上記の賃金手当が月給であれば、月間の平均所定労働時間数等で割算して、時間単価を導き出します。
そして、上記の時間単価に法定外労働の割増率である25%(1ヶ月の法定外労働時間が60時間を超える場合は50%(大企業は
2010年4月1日から、中小企業は
2023年4月1日から))以上の率(会社側で法定の割増率を超える定めをした場合はその率)を掛けると、法定外残業の割増賃金の時間単価となります。
ケース3(法定外の残業時間の計算間違い)
法定労働時間を超える残業時間の計算方法の間違いとしては、以下のようなものが掲げられます。
●1日8時間を超えた分のみを法定外の残業時間としている。
●1週40時間を超えた分のみを法定外の残業時間としている。
●1ヶ月の法定労働時間の合計を超えた分のみを法定外の残業時間としている。
法定労働時間は「1日8時間以内、1週40時間以内」となっていますので、法定外の残業時間になるかどうかは、1日においても1週においても判断しなければなりません。単純に1日8時間を超えた分だけをみていけばいいわけではありません。
具体的な計算方法は、まずは1日ごとにみていき、1日8時間を超えた分は、その時点で法定外の残業時間として計算し、1日8時間以内の労働時間であっても、1週間の起算日(就業規則等で特定していなければ日曜日)から40時間を超えていれば、その分も法定外の残業時間として計算していきます。
労働時間を正しく計算するためには、残業時間だけでなく、欠勤や有休によって休んだ時間や、遅刻や早退によって減った時間も考えていく必要がありますので、意外と難しいものです。
ケース4(変形労働時間制による間違い)
変形労働時間制とは、法定労働時間の例外として、法律で正式に認められている制度であり、これを導入することで、1日8時間や1週40時間を超える所定労働時間を設定することが可能になります。ただし、変形期間を平均して1週40時間以内となるようにしなければなりません。
よく利用されている変形労働時間制は、1ヶ月単位の変形労働時間制と1年単位の変形労働時間制ですが、これによる法定外の残業時間の計算が間違っていることがあります。
また「変形労働時間制」という名称のイメージからか、例えば1ヶ月単位の変形労働時間制であれば、1ヶ月間の途中で自由に所定労働時間を変更して、最終的に1ヶ月間の法定労働時間の総枠を超えた分だけが、法定外の残業時間だと勘違いしている人も少なくないようです。
変形労働時間制を導入するには、就業規則にその定めをすることや、労使協定の締結~届出などが必要です。これらの手続きがされていないと、変形労働時間制を導入していることにはなりません。
上記の手続きができていないのに、変形労働時間制を運用している会社もありますが、労働基準監督署等の行政指導が入ってしまうと、原則の法定労働時間で計算しなおして、残業代の差額を遡って支払いなさいといわれる可能性もあります。
ちなみに、変形労働時間制による法定外の残業時間の計算ですが、原則の法定労働時間の場合よりも複雑になります。具体的には以下のとおりです。
<1ヶ月単位の変形労働時間制の場合の法定外残業時間>
1.1日について8時間を超えての所定労働時間を定めた日はその時間を超える分
2.1日について8時間以内の所定労働時間を定めた日は8時間を超える分
3.1週間について40時間を超えての所定労働時間を定めた週はその時間を超える分(1と2を除く)
4.1週間について40時間以内の所定労働時間を定めた週は40時間を超える分(1と2を除く)
5.1ヶ月以内の対象期間については対象期間の総枠の時間を超える分(1~4を除く)
<1年単位の変形労働時間制の場合の法定外残業時間>
1.1日について8時間を超えての所定労働時間を定めた日はその時間を超える分
2.1日について8時間以内の所定労働時間を定めた日は8時間を超える分
3.1週間について40時間を超えての所定労働時間を定めた週はその時間を超える分(1と2を除く)
4.1週間について40時間以内の所定労働時間を定めた週は40時間を超える分(1と2を除く)
5.1年以内の対象期間については対象期間の総枠の時間を超える分(1~4を除く)
6.その他、対象期間中の中途入退職者等の清算時間の計算が必要(対象期間が短くなるため)
他には、フレックスタイム制も変形労働時間制の1つですが、こちらは賃金計算期間内の総枠のみで法定外の残業時間を計算しますので、その点では楽ですが、始業時刻や終業時刻などを労働者の裁量に委ねる制度でもありますので、採用している企業は少ないです。