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知り合いの方から「失業保険の裏技を教えてください。」といわれ、話を聞いてみたら、「ネットで検索するといろいろと出てくるから…」ということだったので、いろいろと調べてみました。
ただ、どうしても「裏技」という表現が気になってしまったので、そもそも何が裏技なのか…と、考察したことをまとめてみました。 |
失業保険の裏技?
まず、社会保険労務士である筆者としましては、失業保険(正しくは雇用保険)という社会保険制度に対して、「裏技」と表現することに、ものすごく違和感があります。
何を「裏技」というかは、明確な用語の定義があるわけではないので、人それぞれによって捉え方の違いはありますが、私なら「裏技」といわれてイメージするのは、次の1と2のどちらもが当てはまる場合だと考えます。
1.通常の行動ではできないが、裏技を使えば実現できること(または、通常の行動では回避できないが、裏技を使えば回避できること)
2.技というからには、それを求める人が実行できるもの
これ以降、「裏技」とは上述したイメージを指すものとして、考察~解説をしていきます。
「失業保険の裏技」を少し細かく区分すると、概ね以下の4つについて、ネットで裏技(または「方法」と表記している場合も含めて)として情報発信されているようです。
・自己都合退職を会社都合退職にする裏技
・失業保険の給付制限期間をなくす裏技
・失業保険の給付日数を増やす裏技
・失業保険の給付額を増やす裏技
それぞれについては、次項以降から順番に解説していきます。
自己都合退職を会社都合退職にする裏技?
失業保険(基本手当)を受けるにあたって、自己都合退職より会社都合退職のほうが、給付金の支給開始日が早まったり、給付される日数が増えたりしますので、会社都合退職にできたらいいなと考える人がいます。
結論からいいますが、純粋な自己都合退職をした人が、会社都合退職にできるかというと、できません。
まず、自己都合で退職するのに、会社にお願いして、解雇や退職勧奨といった会社都合にしてもらうことは、裏技というより不正行為(違法行為)となります。また、これに応じた会社も連帯責任となります。
これ以外は、「純粋な自己都合退職」ではなく「訳ありな自己都合退職」の場合を指して、会社都合にできるという裏技をみかけます。
「訳ありな自己都合退職」と表現しましたが、これは、結果的に自己都合退職の形式をとったが、退職に至った理由が会社のせいであるような場合のことをいいます。
・多くの労働者が離職するようなことがあった。
・事業所の移転で通勤が困難になった。
・労働契約の内容が大きく違った。
・一定額の賃金の不払いや予期せぬ賃金の低下があった。
・長時間の時間外労働が続いていた。
・パワハラやセクハラ等があった。
・事業所の業務が法令に違反した。
上記のような理由(特定受給資格者に該当する理由)があったので、自ら退職を決断したような場合です。
こういったことを後から知った人からすれば、自分から会社に退職届を提出したから自己都合退職だと思っていたけど、会社都合になるのだと感じるわけです。
ただ、特定受給資格者の要件は、別に隠された情報ではありませんので、これを裏技というのは無理があると思います。
ちなみに、ハローワークに上記の理由を伝えて、会社都合に変更してもらおうと思っても、それだけで変更されるわけではありません。
ハローワークもバカではありませんから、失業者からの話だけで判断することはせず、その後に会社に確認をしたり、書面などの証拠を求めたりなどして、最終的にハローワークが判断することになります。
ですから、純粋な自己都合退職であるにもかかわらず、魔が差して、ハローワークに嘘の申し出をしてしまうと、後で会社とトラブルになる可能性も考えられます。
失業保険の給付制限期間をなくす裏技?
いつから失業保険を受けるか(いつからが基本手当の支給対象日となるか)について、多くの人は退職後なるべく早いほうがいいと考えますが、一定期間を経過した後でないと支給対象日がやってきません。
最初の支給対象日となる日は、ハローワークに離職票の提出と求職の申込みを行った日(受給資格決定日)から通算して7日間(待期期間)と、離職理由による給付制限期間を経た後の日となります。
離職理由による給付制限期間とは、純粋な自己都合退職であれば通常は2ヶ月間となり、会社都合等の退職であれば0日となりますので、後者のほうが早く基本手当が支給されることになります。
ということで、前項(自己都合退職を会社都合退職にする裏技?)で説明した特定受給資格者になれば、給付制限期間をなくすことになるわけですが、前述したとおり、これを裏技というのは無理があると思います。
ちなみに、特定受給資格者ではなく特定理由離職者となる場合も、同じように給付制限期間が0日となります。
・有期雇用の更新がなかった(更新を希望していた場合)。
・体力の不足や心身の障害等が原因。
・家族の病気等によって、家庭の事情が急変した。
・扶養する家族との別居が困難になった。
上記のような理由で退職を決断した場合が、特定理由離職者となります。
※特定受給資格者や特定理由離職者については、ヤフー等の検索エンジンで「ハローワーク 特定受給資格者」や「ハローワーク 特定理由離職者」などと検索してみると、該当するハローワークのサイトが表示されるかと思います。
失業保険の給付日数を増やす裏技?
失業保険(基本手当)を最大で何日分受けられるかについて、たいていの人は「多いほうがいい。」と答えるでしょう。
失業期間が長くなる可能性は誰でもありますので、支給される日数が多いと、それだけ安心できることにもなります。
前項(自己都合退職を会社都合退職にする裏技?、失業保険の給付制限期間をなくす裏技?)でも説明しましたが、これも特定受給資格者と特定理由離職者の場合は、そうでない場合よりも給付日数が多く設定(被保険者であった期間と年齢によっては増えない場合もある。)されているため、同じことがいえます。
これ以外には、ハローワーク指定の職業訓練を受ける場合は、訓練期間中に基本手当の給付日数がなくなってしまった場合でも、訓練が終了する日まで基本手当が延長されて支給されますので、これを裏技といっているのもあります。
ただ、これも別に隠された情報ではありませんし、職業訓練をしばらく受けるという制約もありますので、単に支給される日数が増えてラッキーともいえません。
ちなみに、基本手当の他に、訓練受講に要する費用として、「受講手当」、「通所手当」なども支給されますので、本気で職業訓練を受ける方にとっては、ありがたい制度だと思います。
失業保険の給付額を増やす裏技?
失業保険(基本手当)の日額は、離職前の6ヶ月の賃金支給実績に基づいて算定されますので、これが高い人は算定される日額も高くなります。
ということで、裏技としてみかけるのは、この期間に残業をして賃金総支給額を高くしましょうというところですが、たいていの会社は「勝手な残業はするな。」というスタンスなので、残業するか否かの権限を一労働者に任せていない限りは、会社とトラブルになる可能性もあります。
よって、これも裏技というのはどうかな?と思います。
まとめ(失業保険の裏技の正体)
「失業保険の裏技」ということで、いくつか考察~解説をしていきましたが、結局のところは、多くの人が知らないであろうことや、自分自身の行動だけでは有効に機能しえないことを「○○する裏技」などというキャッチコピーにしているだけで、本当の意味での裏技としては不十分だと感じました。
「裏技」と表示することで、見る人の注目を集め、サイトを見てもらいたいというだけなら大した問題にはなりませんが、あたかも「秘伝の書」や「秘伝の技」のように凄く優良なもののようにみせて、高額な情報商材やコンサルタント契約に導くようなものがあれば、警戒しておいたほうがよろしいかと思います。
社会保険の制度というものは、法令によって運営されているものですから、これに関する裏技というのは現実的でないと思います。
テレビゲーム等のバーチャルの世界の中くらいしか、本当の裏技といえるものは存在しないと思います。
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