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社会保険の手続き上は会社(法人)の役員でも労働者でも同じように手続きを行いますが、役員の場合は労働者と違って労働時間や賃金の取扱いがないことから、社会保険が適用されるか否かは適用要件が異なっています。
この頁では、これらの注意事項について説明していますので、社会保険手続きの参考にしていただければと思います。 |
法人の役員と労働者では社会保険の適用要件が違います
労働者(期間雇用や季節的雇用の一部を除く)の場合は、正社員などのフルタイム勤務者や短時間労働者であっても、一定以上の所定労働時間で勤務する人であれば社会保険(健康保険、厚生年金)が強制適用となりますが、法人の役員の場合は所定労働時間で社会保険の適用要件を判断するわけではありません。
法人の役員の社会保険の適用については、以下の要件で判断することになります。
<法人の代表者である役員(代表取締役など)の適用要件>
代表取締役のように法人の代表者である役員の場合は、役員報酬が支払われていれば社会保険の強制適用となりますが、ゼロ報酬の場合は適用されません。
<法人の代表者ではない役員(取締役など)の適用要件>
常勤の役員であれば、役員報酬が支払われていれば社会保険の強制適用となり、ゼロ報酬の場合は適用されないことになります。
非常勤の役員の場合は、毎月役員報酬の支払いがされていても、社会保険の強制適用とはなりません。
役員の常勤か非常勤かの判断基準
前項のとおり、法人の代表者ではない役員の社会保険(健康保険、厚生年金)の適用要件は、常勤であるか非常勤であるかが判断基準となります。
日本年金機構では、常勤・非常勤の判断要素として、以下の6つの基準を総合的に勘案して判断することとしています。
1.定期的な出勤があるかどうか
2.法人の職以外に多くの職を兼ねていないか
3.役員会等に出席しているかどうか
4.他の役員への連絡調整または労働者に対する指揮監督に従事しているか
5.法人の求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていないか
6.役員報酬が労務の内容に相応しており、実費弁償程度の水準にとどまっていないか
法人に対する役員の従事具合も、それぞれの役員ごとに異なってきますので、判断に悩む場合は、日本年金機構(年金事務所)に個別案件として相談することをおすすめします。
複数の会社を兼務する役員は社会保険の2以上勤務者の届出に注意
法人の役員の場合は、複数の会社で役員となっていたり、一方の会社では役員で他の会社では労働者として勤務しているという場合がありますが、複数の会社で社会保険(健康保険、厚生年金)の加入要件に該当すれば、2以上勤務者としての届出が必要となります。
2以上勤務者を簡単に説明しますと、社会保険の適用についての主たる事業所を1つ選択し、他の事業所は従たる事業所としての届出を行い、保険料や給付の基礎となる標準報酬月額等の算定については、複数の役員報酬や給与を合算した額で算定されることになります。
給与計算の際には、それぞれの事業所から案分された保険料を控除することになりますが、実務上なじみがない方も多いので、しくみをよく理解していないと難しいかもしれません。
労働者であれば、複数の事業所で働いていたとしても、それぞれの事業所での所定労働時間が社会保険に加入しなければならない一定の水準以上となることは、現実として稀なケースであり、2以上勤務者に該当する人は少ないでしょう。
使用人兼務役員の場合の労働保険の適用
法人の役員であっても労働者としての立場や性質が強い人については、「使用人兼務役員」として労働保険(労災保険、雇用保険)の適用を受けることができます。
具体例を掲げると、業務執行権や代表権を持たない役員であり、営業部長・支店長・工場長のような肩書きを持っていて、同時に労働者としての身分があるような人が、使用人兼務役員に該当する可能性が高いといえるでしょう。
主な判断基準としては、役員報酬よりも賃金の支給割合のほうが多いのか、労働者としての勤怠管理や人事管理が他の労働者と同じように取り扱われているのか、などを総合的に判断して考えます。
雇用保険の適用を受けるための手続きの際に、兼務役員雇用実態証明書等の提出も必要となりますので、この点にも注意しておく必要があります。
労働保険の年度更新や雇用保険の離職手続き、給与計算時の雇用保険料の計算等については、労働者としての賃金部分で算定することになりますので、役員報酬とは明確に区分しておく必要があります。
労働者としての性質が強いのにもかかわらず、使用人兼務役員としての手続きを行わなかったり、給与も役員報酬一本で支給していたりすると、労災事故による保険給付が受けられなかったり、雇用保険の失業給付が受けられない事態になってしまうなど、後々の労使紛争となるおそれもあります。
判断に悩むような場合は、事前にハローワークに使用人兼務役員となる人の職務内容や勤怠管理の状況等を伝え、個別案件として相談しておきましょう。