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健康保険に傷病手当金という給付金の制度があり、この給付金は退職後も継続して受給することもできますが、中には卑しい考えで給付金を受給しようと考える人もいます。
そこで、この頁では特に「退職後の傷病手当金」についての妙な誤解がないように、いくつかお伝えしておきたいと思います。 |
傷病手当金とは
傷病手当金とは、健康保険の被保険者が病気やケガによって労務不能となり、欠勤や休職によって会社からの給料が得られない場合に、その被保険者の生活のために給付金を支給する制度のことです。
連続して4日以上の休職が必要な場合で、その4日目からが支給開始日となり、支給開始日から通算して1年6ヶ月を限度に支給されます。
※ここから本頁では「通常の傷病手当金」と記載します。
通常の傷病手当金の受給要件をまとめると、以下のとおりとなります。
1.健康保険の被保険者である
2.業務外の事由による病気・ケガである
3.今まで従事している業務が労務不能である
4.連続する3日間後4日目以上の休業である
5.休業期間中の給与が支払われない(または一部減額)
退職後の傷病手当金とは
イメージしやすいように「退職後の傷病手当金」と記載しましたが、正しくは「資格喪失後の傷病手当金」といわれるものです。
こちらは、病気やケガによる休職期間中に退職をした人(被保険者資格を喪失した人)であっても、その療養のために労務不能な状態が続く限り(通常の傷病手当金の支給開始日から1年6ヶ月までが限度)は、継続して給付金で支援しますよというのが目的です。
※ここから本頁では「資格喪失後の傷病手当金」と記載します。
資格喪失後の傷病手当金の受給要件をまとめると、以下のとおりとなります。
1.資格喪失日の前日まで被保険者期間が継続して1年以上ある
2.通常の傷病手当金の受給対象期間から継続して労務不能である
退職を目的とした給付金ではない
どうも一定数の人の中には、資格喪失後の傷病手当金のことを「退職を目的とした給付金」「退職に関する給付金」のように、「退職」というキーワードで認識をしている人がいるようですが、あくまでも通常の傷病手当金と同様に「傷病」に関係する給付金です。
退職を考えていたら、この資格喪失後の傷病手当金のことを知って、雇用保険の基本手当(いわゆる通常の失業給付)よりも長くもらえそうだからと、どうにか受給できないかと考える人もいるようですが、完全に間違った考え方です。
傷病によって休職をせざるを得なくなった人や現に休職している人が、退職を考えるようになったとか、あるいは会社から解雇されるとかの状況の人が、この資格喪失後の傷病手当金のことを考えるというのは分かりますが、雇用保険の失業給付とは受給要件が被りませんので、その代わりとなる給付金ではありません。
休職前から計画している人
特に精神疾患の人(鬱病や適応障害という人)に多いようですが、休職する前から資格喪失後の傷病手当金をもらうことを計画している人がいます。
何らかの不調を感じて医師の診察を受けてみたら精神疾患といわれたので、ちょうど退職したいと考えてもいたので、これから会社に休職を申し出て、そのまま4日以上経過した後に退職を申し出て、退職後はしばらく仕事に就かないで給付金暮らしをしようと計画するわけです。
別に計画すること自体が悪いこととはいいませんが、必ずしも計画通りに行くとも限りません。
通常の傷病手当金でも資格喪失後の傷病手当金でも、傷病手当金を申請する期間(長期になる場合は1ヶ月か2ヶ月に区切ることが多いです。)について、医師から労務不能であったかの証明をもらう必要があります。
この労務不能であったかの証明は過去の期間に対するものですから、途中で労務不能ではないと判断されることもあります。
この場合、資格喪失後の傷病手当金は労務不能であった日までが給付金の対象となりますので、労務不能ではないと判断された日以降は打ち切りとなります(通常の傷病手当金であれば、再受給となる場合もあります。)。
したがって、申請人本人がまだ仕事に就く気もなく、給付金暮らしを続けていたいと考えていても、ここで終了となります。
まともな人なら傷病の状態が解消されたら再就職を考えるでしょうが、卑しい考えで給付金暮らしを計画していた人は、ここで当初の思惑から外れることになるわけです。
傷病手当金を受給しながらの労働
傷病手当金の給付額のみでは少ないので、短時間労働やちょっとした個人事業等で稼ぎたいと考える人がいますが、これは傷病手当金の制度を考えると矛盾しています。
傷病手当金とは、病気やケガが原因で「療養のために労務不能」な人の生活支援金ですから、仕事ができる状態まで回復しているのなら、給付金の受け取りは止めなければなりません。
ただし、傷病手当金でいう労務不能とは「今までに従事している業務ができない状態」のことを想定していますから、いかなる仕事も完全にできない状態ではなく、仕事の内容によっては労働ができる場合もあります。
とはいえ、労働することが療養の妨げになることも考えられますし、医師がどう指示しているのかや、その人の職業やそのときの状況等を考慮して、最終的には保険者が判断することになります。
資格喪失後の傷病手当金の場合は、退職している人が再就職を考えるにあたって、元の会社での職種とは別の職種に転職することもできますから、「今までに従事している業務ができない状態」というのも、見方が変わってくるかと思います。
本当に労務不能ですか
傷病手当金をもらうためには仕事をしてはいけないと認識している人がいますが、このように思っている方は、給与収入があるといけないとか、事業収入なら所得税の確定申告をしなくていい程度であれば収入があってもいいとか、余計なことを考えていたりします。
そもそも、仕事をするという選択肢が選べるのであれば、療養のために労務不能な状態とはいえないのではないでしょうか。
本当に労務不能であれば、仕事をしたくても労働ができませんし、労働することが療養の妨げにもなります。
日常生活の状況や変化を正しく医師に伝えて、医師の指示に従って療養に専念していれば、自ずと労務不能である人の適切な行動になっていくものです。
中には、どうしても病院に行かないで引きこもりになってしまう人もいますが、こうなると療養を放棄したことになってしまい、傷病手当金の申請に必要な医師の証明も得られなくなってしまいます。
犯罪にならないように注意
傷病手当金が打ち切られるのが嫌だからと、医師に労務不能であると証明してくれと強く迫ってはいけません。
あくまでも医師の医学的所見に基づく証明でなければいけませんから、給付金が欲しいからと、ついつい熱がこもって強迫や強要にならないようにしてください。
もちろん、医師を欺いて病気のフリをして、労務不能である証明書を書かせることも詐欺罪となり得る行為ですので、絶対にしてはいけません。
雇用主の証明の取得を代行してほしい
退職した人から、傷病手当金の申請に必要な元の雇用主からの在職期間中の証明をもらうのが嫌(言いにくい)なので、社会保険労務士が代わりに証明できないかとか、社会保険労務士が代わりにもらってきてほしいと相談してくる人がいます。
在職期間中の証明は労使関係であった雇用主がすべきものであり、全くの他人が勝手に証明してはいけませんので、当然に社会保険労務士が代わりになることはできません。
社会保険労務士が代わりに証明をもらいにいくのは、申請人からの使者という立場なら可能かと思いますが、申請人の元の雇用主が本人からの申出にしか対応しないと断ることもあります。
弁護士であれば、申請人の代理交渉人となることができますが、当然に弁護士への報酬(おそらく数万円はかかると思います。)は支払わなくてはなりません。
元の雇用主に直接言いにくいのであれば、手紙や電子メール等で伝えれば十分かと思いますし、雇用主側も本人から求められた以上は法的義務となりますので、たいていの雇用主は証明に応じてくれます。
ただし、雇用主の中には傷病手当金の制度をよく理解しておらず、証明することが法的義務であることを知らなくて、証明書の作成を頑なに拒否する場合もありますので、このような場合にのみ弁護士を利用すればよろしいかと思います。
バカな依頼はしないでください
社会保険労務士に対して、傷病手当金が確実にずっと取れるように依頼をしたいという人がいますが、確実にというのは保証できません。
傷病手当金の給付目的は「傷病」であり、この傷病が原因で労務不能であるかの第一の判断は医師が行うことです。
特に精神疾患の人で「どうしたら医師に労務不能であると判断してもらえるのか?」と聞いてくる人もいますが、不正な方法でも聞き出したいのでしょうか。
このようなことを聞かれたら、不正な方法をお伝えするのではなく、お説教をしてさしあげるだけです。
病気やケガは成り行きでなってしまうものであって、傷病手当金における労務不能であるかの判断は医師の証明に基づき、最終的には保険者が認定することになります。
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